どうしても納得いかないことがある!【Ⅱ】

本文

(城石垣は石工には造れない!)

 どうしても理解できないのは、未だに城石垣の修復、復元を石工職人にすべて任せていることである。石工職人が担う石組は石垣構造の一部であり、すべてでは無いことが修理工事を設計、工事は注する地方自治体に分かっていないのです。

 例えば、家を造るのに、大工にすべてを任せるようなことはしないことと同じです。柱など、その骨組みを大工に任せても、瓦葺や内装を大工に任せることはないのは当たり前です。石工職人が全てを出来るようなことを言っても、石垣構造の仕組みを理解していない職人にすべてを任せることがどんなに危険かを分かっていないのです。

伝統的な石垣構造は「空積(カラズミ)」と言って、コンクリートを裏込めの構造体に使わない構法である。現在、文化財以外はほとんど使われていない構法になっている。(現土木構造指針では空積は高さ5メートル以上は禁止)
人力での城石垣施工は、経験が多く必要な技術であり、特に割石等(自然石)を積み石材に使用する城石垣施工は、複数の経験豊かな石工のチーム構成が必要である。複雑すぎて数学的に解析することさえ出来ない城石垣の施工実施は、何より職能と経験が支配する仕事でもある.

 ある城郭石垣修理での出来事

 東北地方の有名な城跡の石垣修理工事で、修理後の石垣について市民から「モザイク模様のよう」と酷評されたことがあった。その評判の悪い石垣について国の調査官から「直せるか?」と曖昧な相談を受けたことがあった。
 後日、現地でその石垣を見て、調査官に「すべて、やり直した方がいい!」と報告した。

 修復した石垣は、積石から小さな間隙をふさぐ「詰石」まで記帳された番号がまだ残っていたが、市民が指摘するようにモザイクタイル張りの様になり、城石垣の本来の力強さや緊張感、城壁としての威厳が全く無くなっていた。それだけではない。石垣の勾配の施工(取り方)が一様なものになり、平坦な印象を受けるような間違った施工をしていた。 「モザイク模様のよう」と市民が指摘した石垣の様相は、周囲に遺る往時の石垣からも、あまりの表情が乏しい石垣となっていたのである。普通に考えれば、表面だけを真似しても元の構造体に戻ることなど無いことは明白なはずである。

 もう一つの極端な例として、ある関東の有名な城跡の石垣復元工事では、完成したばかりの「櫓台石垣」が足場も取れないうちに崩落したことがある。石垣の構造、特に裏込めグリ石層の施工に大きな難点があった。石積裏に投入した「グリ石」の施工後の挙動対策を怠ったため、自ら沈下する動きが石垣総体の崩落に繋がったものである。

このことは、石工職人自体が石垣構造を如何に理解していないかをものがたっている。城石垣工事の石垣勾配、裏込めグリ石等施工を石工に任せたことで引き起こされた結果でもある。
 このような例は、崩落に至らなくともたくさんの事例がある。

 世界遺産の指定とユネスコの遺跡修理の問題点

 私はアジアもとより世界中で実施しているユネスコの歴史遺産への修復等工事に好感を持っていません。何故なら、石造建造物の保存修理の施工方法に違和感を持っているからです。石造構造物に安易にコンクリートを使っているからです。 

若いユネスコの職員が、それこそコンクリートの性状や配合の組み立ても知らない人達が安易にコンクリートでその裏側を補強している光景を、よく見かけたからです。 修理方法は、石造物の石材に番号を打ち、元通りに修復することは同じですが、構造的な仕組みや加工を全く無視した裏側にコンクリートを詰めた遺跡保存を実施しているのを何回も見ている。後々に大変なことになることは明らかです。

 思うに、日本の城石垣修理もユネスコの修復工事の慣例に倣ったのかもしれません。文化庁の何も見識もない専門官がユネスコの修復に倣って「城郭石垣の修理修復」もそうあるべきだと思ったのかもしれません。その結果が石垣積石の「番付け、元の位置に戻す」と厳密に義務付けしたものと思われます。

 しかし、このことは矛盾した行為であり、日本の石垣構造を無視した修復技法なのです。ユネスコの修復は表面的には同じ石材は使われていても裏側にコンクリートで強固に固めているのです。構造的に石組の変わる構造体をコンクリートで補っているのです。

 さすがに、日本の城石垣にコンクリートを使うような馬鹿な真似はしませんが、構造体を補強することもなく、番号通りに、小さな詰石までも、同じ位置に戻すような石垣修復方法は、その構造自体を不安定なものにしているにすぎません。  日本がユネスコの「世界遺産指定」を受けるような政治的な採択をしたことは、それによって、失うことも多いはずだと当時思っていました。生活の中により歴史文化財の公開活用を目指すことは間違いで はないとも思いますが、その歴史的価値を失うような行為は、後の時代に大きな禍根を残すことになるはずです。

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