何故、自立しないようなものを、重要な城壁の石垣に採用したのかを理解するには、見方を変えるのが早道かもしれないと私は思っている。
城壁である。崩壊を防ぎ、長期的に構造を維持するモノを考えるははずであるが、維持するためには何を優先したかと言えば「破損とその要因!」であるはずだと。
城石垣が変形、崩壊する主な要因は
地震振動による崩壊
裏側からの雨水等浸透水による変異と崩壊
地盤等その他の幾つかの要因。
が原因となるものと挙げることができる。
特に、大きな石垣崩壊、崩落を起こす要因は前記の中の地震振動と雨水の浸透による石垣内部からの変形である。地震の発生は予測できるものでないが、雨水の浸透からの変形や崩壊には常時の対策である。日本は雨の多い地域であり、石垣上部からの浸透水は、どんなに排水溝を設けても限度がある。日常的に管理や対策が絶対に求められるものである。
それぞれの有効な対策と決定要因
地震対策には、裏込栗石が流動化しない様にすることや、ある程度の間隔で出角石積(剛域を造り強度を高める)を設けることが有効である.
上部からの雨水排水には、地震対策とは異なり裏盛り土の十分な締固めを行い、それでも侵入する浸透水の排水のための裏込層の設置により、その水を逃がすことが有効である。
結論から言えば、現在残る城石垣の構造から、日常的な雨水対策からの構造様式であることが明確である。そのことが日本特有の特徴的な石垣景観になっている。
いつ来るか分からない地震振動よりも、日常的な雨水等の浸透水からの石垣破損対策を重視したことが伺えるのである。 積石を背後に倒し、裏側に浸透水を配する裏込め石の層を造り、裏盛り土の締固めを強固にすることで、その構造の一体性を保つように考え出されたものである。全国一律に、例外もなくこの石垣構造を採用していることに、「水は止められない!」との共通の懸念があったものと考えられるのです。
見逃してならないこと!(もう一つの要因)
固定もしない、自立もしない石積にも、利点もある。
積石面が変形や欠落に有効な場合があることである。背後の浸透水や土圧の増加などで変形(孕み出し)や積石の欠落があっても、一気の崩落には繋がらないことである。現存する石垣の孕み出しを見ても、少々の変形や積石の欠落でも石垣の崩壊につながっていないのが見て取れるはずです。
長い月日が経てば、どんな構造物でも変位や変形が起こるのは当たり前で、それが崩壊や破壊に繋がらないことが重要なことである。変形に対する構造体の耐性が、日本特有の「自立しない」石垣構造を採用した「もう一つの要因」かもしれないと思っている。
付け加えるならば
「自立しない」城石垣をより安全に維持するための処置には、石垣上部に櫓建物や塀構造物の施設を設けることが効果的であり重要である。上部からの構造体の設置は石組相互の強度を増し、強固にする(摩擦係数を増す)ことであり、また石垣への雨水等浸透水の軽減にもつながるものである。
現存する城石垣を見れば、その上部に櫓建物が載るようなものは比較的に良好な状態で残っていることがその証明でもある。
(ただ、今回の熊本地震で櫓建造物や門建物の下の櫓石垣が崩壊したのは論外である。上部に建造物が載ることは、周囲からの雨水の浸透を少なからず排除できるはずであるから、「流動する」裏込、栗石の施工を考慮すべきだった)
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