城跡の現存石垣の修理修復を業務としていると、地方の役所に呼ばれ、変形する石垣を目の前にして「この石垣は大丈夫ですか?」と質問されたことがよくあった。
石垣は変形の孕みだし(石垣の中央部が前面に孕み出す)がほとんどで、見た目にはいつ壊れてもおかしくない危険なモノのようにも見えた。しかし僕の返答は殆どが「大丈夫です!」と答えていた。
勿論、石垣の使用石材の種類、自然石か割石か整形された石材によって危険度は異なるが、おおむね答えは同じであった。
「日本の石垣の石積は固定していないのだから、少しぐらいの変形は当たり前!」と相手にとっては意味不明な回答をしていた。
四百年以上の実績!
城郭趾は築城以来四百年以上が経ち、明治初期の廃城令以後でも百年五十年以上たっている。ほとんどの城郭が放置されたような状態で、今日まで至って居るのが普通である。日々管理をする人もない状態で健全な状態であることなど無い。
加えて、石垣を護る塀や櫓など上部建物、その排水施設も取り払われた状態で百五十年以上たっているのである。どんな構造体でも変形がないなんて有り得ないことでもある。 構造的に弱い場所に変形が集中するのが当たり前である。その意味で、石垣の最も弱い中央部に孕み出しの変形が起こるのは当然と思える現象である。弱いところに、当たり前の変形が起こることは、「まだ石垣が活きている」証拠でもある。
もう一つの理由!
「大丈夫です!」というのには、もう一つの隠れた理由がある。変形、崩落による危険性より、今の時代の職人が、破損個所を積み直した方が「モタナイ危険性!」が大きいからだ。
正しくは「解体修理するより、今の状態の方が遥かに石垣はもつ!」と思うからだ。現在、職人と言われる石工に、あまりに信用していし、現実に、破損変形した城石垣を解体、積み直したものが一年ももたず変形崩落した例などたくさんある。「そんな危険性」より、今の状態のほうが遥かに石垣は維持できると普通に思えるからだ。
「四百年経って、こんな変形だったら、まだまだ保ちますよ」と答えることにしていた。
石垣の破損変形する理由とその対処
城石垣の変位よる崩壊等危険性の診断には、その変形状況や位置、石積の積み石の種類により崩落の危険性が大きく異なってくる。
そして何より危険性の指標になるのが、石垣の築造の年代である。技術は進展している訳でもなく、技術が衰退している近年の修復箇所は、その危険性が増すのが一般的である。
私は、石垣の変形やその危険性の状況を見るとき、いくつかの視点で、その危険性と安全を判断する
- 変形の種類とその要因
- 基礎や地盤面の不動沈下
- 積石の種類と石材の加工程度
- いつの時代に築造か、また近年の修理はあるか
城跡の保存活用等環境整備事業を担当したある城跡公園で、城を管理する担当部局から、「異常な変形」を見せられたことがある。その高石垣の変形は石垣上部に孕み出しが起こり、何より変形箇所が異常だった。 直ぐに、上部の庭園として公開されている広場を調べると、広場の雨水を集める排水のための集水桝が「浸透桝」になっていた。大量の雨水が石垣に流れ込んでいたため、異様な変形をきたしていたのである。
崩壊をきたすような石垣破損、変形は近年の改修、公開に由来することが多く、その維持管理の難しさを物語っている。
コメント