「玉掛け」の技術  

エピソード

 積石石工の技量と仕事の精度

ある石垣修復工事現場で大きな自然石を積む職人の作業を県の土木職の技術者達が真剣にみていたことがある。彼らが感心をもって石工の作業を見ていたものは、正確でスピード感をもって一度も間違えもしない積石職人の「玉掛け」の光景である。県の職員たちは、あまりの正確さに感心していたことは明らかである。

「玉掛け」とは、大きな積石をクレーンで吊り上げるときに積石にかける縄かけの作業のことである。一本のワイヤーでの縄かけは、その重心を外すと吊り上げ時に落下するような危険を伴う作業でもあるが、一度の躊躇もなく、スピード感を維持した仕事の様子に感心していたのである。

プロとしての作業、力量を図るもの⁉

伝統的な一本掛けの「玉掛け」は、現在「施工等安全規則」では禁止されている危険な施工行為になっているはずだ。一本掛けの「玉掛け」に代わり、二本掛けの「玉掛け⁉」やシートやネットで積石を包むように持ち上げている作業光景を見て私は違和感を覚えている.
普通、職人(プロ)は伝統的な玉掛けを止めようとはしない。なぜなら玉掛けをすることで集団での仕事の効率化と一体感を生み、そしてスピード感が施工の精度を高めることになるからだ。安全だけを優先しても、仕事の精度が高まる訳ではない。

城石垣の石積工事のように、協働する仕事では職人同士の「信頼感」であり、緊張感から生まれる「一体感」である。施工精度を高めるための無駄のない動きが何より重要である。
「地元の石工は、日本一の職人だと自分で言っているが、玉掛けさえできない」と、もう退職近い県専門職の人が言っていたのを私は憶えている。そして、玉掛けは職人の技量を測る物差にもなっている。

「玉掛け」と城石垣修復

伝統的な一本吊りの「玉掛け」作業をここで取り上げるかは、その作業行為が城石垣工事の良否を左右するからである。特に自然石に近い玉石や不定形の割石を積石材に使う中世戦国末期から慶長年間の城石垣施工には、伝統的な「玉掛け」が絶対的に必要であり、その熟練した技が欠かせない施工行為なのです。それなくして、石工たちのチームワークも施工の精度も維持できないと私は思っている。

なぜ、伝統的な一本使いの「玉掛け」が必要かは石垣築造における石積み作業の工程を考えれば、理解できます。
石積工事における職人の配置は、差配し準備する側と積み手側に分かれて行います。差配する「かしら」が石垣積の状況に合わせて、仮置きした積石の中から石材を選び、手元の職人が「玉掛け」して積み手側に積石を吊り上げ渡します。  
積み手側では受け取った積石を玉掛けした状態で、積石の当たりや位置を確かめ、不足する場合は玉掛の縄をずらして石尻を上げ、面側を見てようやく縄を外すのです。不定形の積石材が一度に組みあがることは無いのです。
一方、二本の縄を使う「玉掛け」やシートで吊り上げる方法では、本来の石置きや石組みの確認が(取り外し等の)手間がかかり、無駄な時間が生まれることで施工自体に「おろそかに」なりかねないのです。

城石垣等修復工事を見てきた私から見れば、熟練の石職人の行為であれば、一本掛けの「玉掛け」の作業のほうがより安全であり、何よりしっかりした石積施工が可能のように見えるから不思議である。

今では石積施行中で玉掛けを見る機会も少なくなっている。まして、城石垣の石材のように自然石に近い積石を吊り上げ、設置、石組するとき、伝統的な玉掛の作業は重要な職能でもある。大事なことは、安全ばかりを優先し、伝統的な一本吊りの「玉掛け」を止めることで、作業内容が向上したかとの問題がある。石積工事は何よりチームワークが最も重要視される作業でもある。


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